茶事・茶会は亭主と客で作り出す日本の総合芸術

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柿傳 炉 釜 体験談

お茶事やお茶会というと敷居が高いイメージの方がほとんどと思いますが、実際にはほどよい緊張感を保ちながらも非常に和やかな雰囲気で行われるものです。

この記事では『京懐石 柿傳』での初釜の様子を写真付きで解説し、実際にお茶事がどのような手順で進み、何が行われているのかをご紹介したいと思います。

お茶事とお茶会という言葉がありますが、お茶事は料理を含む本格的な会を意味し、お茶会はお茶を飲むことを中心とする会を意味します。

亭主はお茶会やお茶事の主催者客はお茶会やお茶事に出席する人のことです。

日本文化の良さを伝える『京懐石 柿傳』

新宿駅中央東口の一等地にある安与ビルの6階~9階にある懐石料理屋『京懐石 柿傳』は、東宮御所や帝国劇場を手掛けた谷口吉郎氏が設計した茶室を満喫できる都会のオアシスです。

9階に茶室が3つ、8階は椅子席で楽しめるレストラン席、7階、6階にはサロンやホールがあります。柿傳の茶室は、表千家のお家元の指導を得ているため表千家の茶室の様式です。十畳の茶室が2つと三畳半台目の小ぶりな茶室が用意されています。

八角形や六角形が飛び出したような特異な形の安与ビルを見たことがある人は多いと思いますが、中に茶室があることをご存知の方は少ないかもしれません。

安与ビルの二代目オーナーと川端康成の会話がきっかけで誕生したという江戸時代から続く京都の仕出し店の流れをくむ『京懐石 柿傳』。看板の文字は川端康成の直筆です。

お茶事だけでなくカジュアルなランチから本格的な懐石料理を楽しめるので一度雰囲気を味わいに訪れてみてください。

茶事の流れ

茶事のざっくりとした流れとしては、前半(初座)に懐石料理を食べて、休憩(中立ち)を挟んで後半(後座)にお抹茶を頂く流れです。

実際に私が柿傳での初釜に参加したときの流れは以下になります。

【初座】受付→待合→席入り→ご挨拶→初炭→懐石→【中立ち】→【後座】濃茶→薄茶→ご挨拶・退席

この一連の流れで3時間半ほどかかりました。通常お茶事は4時間程度かかるのでこれでも短い方なのです。

茶道の世界では一年を「風炉」の時季と「炉」の時季に分けます。

  • 「風炉」の時季は風炉釜という畳の上に置く釜を用いて湯を沸かします。5月~10月頃です。
  • 「炉」の時季は床に掘られた炉に釜をかけて湯を沸かします。11月~4月頃となります。

初釜は年の初めにするお茶事なので「炉」のスタイルで行われました。

お茶事の役割分担

”お茶事は一日にして為らず”です。

お茶事を開催するとなると亭主はお軸(掛け軸)の選定から始まって、お茶碗やお釜、花器などさまざまな道具を用意し、懐石料理の献立を考えたりとすることがたくさんです。

しかし、お茶事は亭主と客が作り出すものなので客にも役割があります。

一番上席に座る人を正客、以下次客(二客)、三客、四客と続き最後に座る人を末客またはお詰(つめ)とよびます。

特に正客とお詰は茶道の心得がないと難しく、正客はお茶事の最中に亭主に質問をするタイミング、何を質問するのかというお茶の基本をわかっていないとお茶事が成立しません。

お詰の方は亭主と会話をするシーンは少ないもののお菓子が入った箱を戸の近くまでお運びしたり、他の客と少し違う動きをします。

これがお茶会に突然誘われるとドギマギしてしまう理由ですが、正客とお詰以外の客は前の客と同じような動きをしていればよいので、過度に不安になる必要はありません。

『京懐石 柿傳』の初釜レポ

どんな場所でどんなことをするのかを写真付きで初釜茶事の流れをご紹介します。あくまで『京懐石 柿傳』で行った場合の流れです。以下の流れをステップごとに解説します。

【初座】受付・待合→席入り→ご挨拶→初炭→懐石→中立ち→【後座】濃茶→薄茶→ご挨拶・退席

【初座】 受付・待合

寄付(よりつき)・待合(まちあい)

寄付とは茶事茶会に招かれた客同士が待ち合せたり身支度を整える部屋で、待合は亭主のお迎えを待つ部屋です。私の経験上では寄付と待合は一つの部屋で兼ねていることが多いです。待合には正客が座る位置に煙草盆が置かれ、床には茶事ゆかりの掛け軸も掛けられています。

現在は煙草盆で本当に煙管を吸うわけではなく、昔の流れで置いていますが、正客が座る位置を示すのにも役立っています。昔の茶人は茶事茶会の前に煙草をふかしていたと思うと優雅ですね。

『京懐石 柿傳』でも寄付と待合は兼ねていました。安与ビルに入り、受付兼寄付待合の部屋に行き、受付を済ませ、客全員が集合するのを待ちました。

柿傳には茶室が3つある関係で寄付待合には自分の仲間とは違うグループも待機していました。寄付待合はクロークも兼ねていて荷物も預かってくれます。ここでは数寄屋袋に入れた懐紙など必要な道具以外は全て預け、指輪や腕時計も外して身支度を整えます。全員が揃って落ち着いたら白湯を頂き、茶室のある9階に向かいました。

腰掛待合(こしかけまちあい)

名前の通り腰を掛けて待つスペースで、茶庭の入り口の前のスペースにベンチのような椅子があるので腰を掛けて亭主の登場を待ちます。準備が整った亭主が登場したら客は席を立って、亭主も客も黙って礼をします。[主客黙礼]

この瞬間が現実世界から茶の湯ワールドに切り替わった感じで私は好きです。

ここで、亭主の方と「お久しぶりです!」「本日はどうもありがとうございます!」なんて会話を始めるとなんだか現実世界の延長の感じがしてしまいますが、あえて黙礼をして亭主はスタスタと茶室の方に戻っていくのがクールです。

席入り(初入り)

腰掛待合での主客黙礼が済んだら正客はタイミングをみて、茶室へと進みます。茶室に入るまでの過程もまた現実世界から茶の湯ワールドに切り替わっていくワクワク感があります。

扉を開けると石畳があるのでその上を歩き進むと蹲踞があります。神社の手水舎と同じ要領で手と口を清め、いよいよ躙り口から茶室に入ります。ここでは手を物理的に清めるよりかは身を清める意味合いが強いです。

蹲踞 柿傳での初釜体験

茶室に入ったら、まずは掛軸を拝見し、次に歩き進めてお道具が置いてある棚や炉を拝見します。

掛軸は茶室に入ってまず一番最初に拝見するもので、茶事のテーマが書かれているものになります。

柿傳 初釜 掛け軸

主客総礼してご挨拶

ここは私が思うお茶事の和みポイントです。腰掛待合では無言で礼をして、一気に緊張感が高まり、茶庭に入り、蹲踞で身を清め、あの小さい躙り口から茶室に入り込み、掛け軸を拝見し、、、とピーンと張りつめたところに亭主と交流ができる瞬間で、私はこの時間も好きです。

ここで正客は掛け軸や茶庭の露地の風情をたたえたり、掛け軸の意味を訪ねたりします。私が参加した初釜は先生が亭主で生徒が客のパターンだったので先生にお茶事を開催してくださった感謝の意を表したり、初釜なので目標を宣言したりと亭主への挨拶は自由です。

初炭(しょずみ)

本物の炭でお湯を沸かすので、亭主が炭をくべるのを拝見します。どのように炭を配置するかもお稽古で学びます。

このとき、香合の拝見をしますが、今回は非常に可愛らしい亀の香合でした。(写真がなくて残念です。)

懐石

初炭手前が済んだら、お湯が沸くのを待つ間に懐石料理を食べます。

懐石料理は一汁三菜です。一つの汁物となます、炊き合わせ、焼き物の三種のセットのことでいたってシンプルです。それはお茶事の料理は亭主が自分で料理を持ちだして客をもてなす「もてなしの心」に重きが置かれているので、簡素化された料理の中に「こころ」を盛り込むのがよしとされているからです。

今回の初釜はお料理は柿傳さんにお任せしていることもあり質素なものではなく立派な松花堂弁当で、とても美味しかったです。

初釜 柿傳 懐石 弁当

そして懐石の時にお酒も頂きます。私は初めてお茶事に参加した時はお酒も飲むとは知らなかったので驚いた記憶があります。

懐石料理を食しながらお酒も飲むのでこの時間は緊張感は溶け、お隣同士の客同士は会話もしますが、お茶事なのでうるさくならない程度の会話に留めます。

【中立ち】

楽しい懐石の時間が終わると一旦茶室を退室し、腰掛待合に戻ります。この中立ちタイムで一瞬にして現実世界に引き戻るのがお茶事のおもしろいところです。

特に柿傳は大都会である新宿にあるので、ふと腰掛待合から外に目をやるとガヤガヤした新宿の街並みが広がり、今までのお茶事は夢だったのか現実だったのかという気分にさえなります。

【後座】席入り

中立ちが終わってまた最初と同じように茶室に入ると、今度は濃茶を飲みます。

中立ちのときは、床の間のお飾りが茶花に変わっているのでそちらと点前座のお道具も拝見してから席につきます。

柿傳 初釜 茶花

小さいながらも力強く咲いているお花たち。

柿傳 初釜 中立ち後の拝見

写真では見にくいですが、棗には鶴が描かれています。香合は亀、棗には鶴と長寿の象徴が使われ、蓋置にも松が描かれており初釜に相応しいお道具を取り揃えてくださいました。

濃茶

ここからが普段のお稽古でしているお点前です。

お抹茶には濃茶と薄茶と飲み方が2種類あり、最初に味も飲み口も濃い濃茶、そのあとに薄茶を飲みます。

濃茶は1人あたり3.75gの抹茶で練ります。練るという言葉を使うのはどろっとした感じで抹茶とお湯を混ぜ合わすときに混ぜるというよりも練るイメージで作るからです。以前は濃茶は一つのお茶碗を回し飲みしていましたが、コロナ禍以降は1人1碗(各服)で頂くようになりました。

お茶の世界ではお菓子は抹茶の前に食べ始め、抹茶を全て頂いてからお菓子を食べます。

初釜のときは、裏千家では花びら餅というお菓子を食べるのが通例です。

柿傳 花びら餅

コロナの影響でビニールのパッケージのままになっておりますが、通常はビニールから出されてすぐ食べれる状態で提供されます。

薄茶

濃茶の次に薄茶を飲みます。薄茶を飲む前に後炭といって炭をつぎ足すお点前がありますが、現代では時短のためこの後炭を省略して濃茶のあとにそのまま薄茶を飲むケースが多いです。実際に今回は初釜シーズンで柿傳は予約でいっぱいだったため時間内に終わらせる必要があり後炭は省略しました。

薄茶は1.8gの抹茶とお湯でほどよく泡立てて飲むのでカプチーノのようなイメージです。薄茶の際もお菓子を先に食べますが、薄茶は濃茶ほど強みはないのでお菓子は干菓子になります。

抹茶の粉は非常に軽いので1.8gといっても見た目には結構ボリューミーな抹茶の粉を使います。

柿傳 なすびの砂糖漬け

今回は干菓子ではなく一同が久ぶりに集まった初釜だったので特別になすびの砂糖漬けを出して下さいました。また初釜なので「一富士二鷹三茄子」にも因まれています。

ご挨拶・退席

薄茶を全て頂き、お茶碗をお返ししたらまた順番にご挨拶を交わします。亭主からの最高のおもてなしに感謝の意を表します。

ご挨拶が終わったら退席しますが、出る際も正客から順に床の間、点前座、炉を拝見して躙り口から退席します。

お茶事レポ まとめ

ざっくりではありますが、実際に行われたお茶事の様子を解説しました。ご挨拶の時間に亭主と会話をしたり、懐石料理を食べながらお酒を飲んでリラックスができたりとお茶事は堅苦しいものではなく、和やかな空間であることが伝わると嬉しいです。

お茶のお稽古を受けている人でも初めてお茶事に参加するとなると緊張しますし、何回参加しても緊張するのも事実ですが、茶道の基本精神は亭主が客に心を込めて美味しいお茶でおもてなしをすることなので、亭主が自分のためにどれだけ手間ひまかけて、時間を使って準備をして下さったのかをイメージして亭主に感謝と尊敬の念を抱いていれば粗相になるようなことはありません。

機会があれば是非一度はお茶事に参加してみてくださいませ。

この記事を書いた人
富士乃井 茶々

茶の湯サロン運営者の富士野乃井茶々です。

社会人になってから着物が好きになり、
着物を着たいという理由で茶道を始めました。

着付けと茶道を中心に日本文化が好きになり、
それを世界に発信するために英語の通訳案内士になりました。
2年半で4498人の欧米・アジアの方々をご案内。

現在は海外に移住し、海外から茶道文化を発信中です。

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